2006年 05月 28日 ( 2 )

電力デリバティブ

今日読んだ論文は特に経済を学んでいなくてもそれなりに面白い論文かと思ったので
紹介してみようと思います。

Allaz and Vila "Cournot Competition, Forward Markets and Efficiency" (1993)

通常、先物・オプション等のデリバティブ(金融派生商品)は、リスクヘッジつまり
将来どうなるかよくわからない状況(不確実性が存在する状況)において、
大きな損失が発生してしまうことを避けるために存在していると考えられています。
しかしこの論文では、不確実性がなくても寡占市場(少数の企業しかいない市場)においては
各企業が戦略的に先渡取引を行うインセンティブを持つため、
自発的に先渡市場が発生する可能性があり、さらに、先渡市場が存在する場合における
少数企業の競争の結果は、先渡市場が存在しない場合に比べて消費者にとっても
社会全体にとっても望ましいということを主張しています。

また、先渡市場における取引がリアルタイムに行われるのであれば、
そのときの市場価格は完全競争市場(多数の企業が競争している市場)における価格と
一致するということも主張しています。

例えば電力市場を考えてみた場合、関東では東京電力と北陸電力という2つの電力会社に
よる寡占が発生しており、通常寡占市場における価格(電気の値段)は競争が激しい市場
における価格よりも高くなります。

ここで電力という財に関して先渡取引が可能になる、つまり将来発電される電力を
実際に発電されるより前の時点で取引することが可能になるのであれば、
多数の企業が存在するのと変わらないような価格が実現可能であるということになります。

2企業が数量競争(Cournot競争)と呼ばれる競争を行っている場合では
互いに先渡取引(売り)を行うインセンティブが発生することをこの論文では示しています。
先渡取引を行うことによって将来の生産量に対する確実なコミットメントを行うことは、
相手に対して先手を打つことを意味し、これはその企業にとって利益の増加をもたらします。
しかしお互いの企業が先手を打とうとすることによって、「先手の打ち合い競争」が発生する結果
所謂「囚人のジレンマ」が発生し、両企業は結果として先渡市場が存在しない場合に
比べて多くの財を生産してしまい、これが価格の低下を招きます。
(この結果として両企業の利潤も、先渡市場が存在しない場合に比べて小さくなります)

企業間だけで見ればこの現象は囚人のジレンマになるのですが、
生産量が増加して価格が低下すること自体は経済全体から見れば厚生の改善につながり、
特に先渡市場がリアルタイムに開かれている場合には、東電・北電だけではなく、
無数に電力会社がある場合に達成される価格が実現されます。

電力市場では電力自由化が行われ、発電・(電気の)小売の分野では徐々に企業が参入
してきていますが、この結論をそのまま現実に適用できるのであれば、
電力デリバティブ市場さえ開設すれば自由化する必要は特にない、ということになります。
この発想には当然問題があって、この論文では将来に対する不確実性が存在しない
状況を想定しているので、不確実性の存在する現実の状況とはかなり異なります。
しかし実はこれはあまり結論にとっては本質的ではなく、不確実性は存在していても
各企業がリスク中立的(つまり、確実に100円もらえるくじと、50%の確率で0円、
50%の確率で200円もらえるようなくじを同じ水準で好む)ならば結論は不変です。
しかし、

・各企業が価格競争ではなく数量競争を行っている
・実際に生産が行われるのは最後

という部分が論文の結論にかなり影響しているらしく、価格競争(Bertrand競争)を
行っている場合などについてはこの結論は導出されないようです。
よって電力市場で価格競争が行われているとすれば本論文の結論をそのまま適用する
ことはできないのですが、ピーク時(夏の昼間など)に関しては数量競争が妥当だと
考えられているので、電力市場に関してこの論文のアイデアを適用できる余地は十分にあります。

ちなみに電力に関する先渡取引を中心としたデリバティブ(電力デリバティブ)はアメリカでは
それなりに発達しており、2000年に倒産したEnronは電力デリバティブを用いて
大きな収益を得ていました。このEnronによる極端な投機的行動が
カリフォルニアで発生した電力危機をもたらしたという説もありますが、
IT関係の需要の高まり、マーケットデザインの失敗といった様々な要因によるものであるらしく
Enronによる電力デリバティブの濫用だけが原因であったとは言えないでしょう。
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by pastimeparadise | 2006-05-28 22:10 | econ

またもや講義

6月後半から8月後半までまた某資格予備校で講義をやることになりました。
今度は9時から15時までの仕事(1日2コマ)なので
朝はだるいけど午後がかなり空くので嬉しいなあ。
それに今回は八重洲なので乗換不要。

金ばっか稼いでないで研究やらないとなぁ…。
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by pastimeparadise | 2006-05-28 12:46 | 雑記